艶歌~SPレコードコンサート

先日、毎年恒例の琵琶樂人倶楽部SPレコードコンサートでした。琵琶樂人倶楽部もすでに68回目。いい感じです。今回のお題は「女流の時代」。琵琶だけでなく、同時代に活躍した色々なジャンルの女流名人も聞いていただきました。

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第一部は水藤錦穣、豊田旭穣、田中旭嶺。実はこの3人、つながりがあるんです。大正時代、筑前琵琶のトップを張っていた豊田旭穣に憧れて、穣の字を自分の芸名に付けたのが水藤錦穣。そして豊田の弟子の田中旭嶺は、当時、足立区に住んでいた水藤錦穣宅に泊まり込んでお互いの技を教え合った間柄とのことです。第一部は縁の深いこの3人の演奏を堪能しました。
第二部は、娘義太夫の豊竹呂昇、小唄の市丸、オペラの喜波貞子、歌謡曲第一号の佐藤千夜子等をかけました。市丸さんの歌はいつ聞いてもいいですね~~。ふと一杯呑りたくなります。オペラの喜波貞子もさすがヨーロッパで活躍しただけあって、現代の一流が霞むような見事な歌唱でした。生の声を聴いてみたかったですね。今回は全て歌の曲でしたが、それはまた「艶」の競演でもありました。

クレデンザ

それにしてもクレデンザから聞こえるSPレコードの音は身に迫ります。我々が普段追い求めている「良い音」とは何か?問いかけられます。SPからLPに変わったことで「何かを失い」、更にCDになったことでまた「何か」を失っている。確かに物理的な、数値的な面に於いてノイズは消え、綺麗なリヴァーブがかかり、一聴すると生音に近いような音になりましたが、そこには音楽の大事なものが失なわれているように思えてなりません。
やり直しの効かない一発取りのSPの時代と、やり直しも修正も、何度でもOKなデジタルの時代。カーネギーホールの10列目のエコーが欲しいと思えば、クリック一つでそんな音になってしまう現代は、やはり大事なものを失っていると言わざるを得ないです。如何でしょう?
2音楽が時代と共に変化するのは良い事です。人間の暮らしが変化している以上、音楽が変化しないというのはおかしいです。もし雅楽のように変化をしないというのであれば、それは人の営みに沿っていない音楽だと言わざるを得ません。そういう音楽に人々は惹きつけられ魅力を感じてくれるでしょうか。現代の音楽家はもっと真摯に音楽に、そして時代に向き合うべきだと思います。私は100年経っても人を惹きつける、血沸き肉躍る音楽を演奏し、そして聴きたいのです。

SPレコードは昭和37年まで生産されていたそうですが、やり直しの効かないこの時代の演奏は、音楽そのものに立ち向かい、技術を磨き、研究し、自分の明確なスタイルを持って演奏しなければ、到底舞台にかけられるものには水藤錦穣5ならなかっただろうし、「お上手」のレベルでは通用しなかったと思います。今のようにライブハウスも無いし、簡単に舞台に立てるなんてことはなかったことでしょう。ましてやレコードを出すなんてことは、ほんの一握りの許された人だけに与えられた機会だったと思います。だから生半可ではとても務まらなかったし、選ばれし者だけがSPレコードの音源として、今残っているのだと思います。今回聞いた面々の演奏はぜひ現代の琵琶人にも聞かせたいですね。水藤、田中の弾法の技術は驚くべきものがあります。現代ではあれだけのレベルの演奏を聴いたことがありません。びっくりしますよ。右上写真 水藤錦穣
                     

市丸
私がSPレコードに惹かれるのは、その「艶」と言ってもいいでしょう。LPもCDも良いのですが、SPが一番「艶」を表現しているように思えます。
歌でも楽器でも「艶」の無い音には魅力を感じません。今回久しぶりに聞いた市丸さんの声はしっとりとした情感でこちらを包むように響いて来ました。
こうした「艶」は師匠に習っただけでは出てこないですね。強弱のつけ方や、弾き方をいくら習ったところで、先生と自分は違う人間。感性も肉体も、生きた時代も違うのですから、そっくりな音を出しているという事は、まだ自分の音楽をやれていないという事です。一人一人声が違うように。楽器の音色も違う事が自然であり、師匠と同じ音色を出しているようなものは、ただの「お上手「お稽古事」。まだ音楽として成立していないとも言えます。
SPレコードには選ばれし者の艶が溢れているのです。

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自分の琵琶は、常に最高の状態であるように調整を怠りませんが、これは単に仕事の道具だからというよりも、毎日毎日自分を惹きつける「艶」を湛えた相棒でいて欲しいからです。良い音からは、素晴らしい音楽が流れ出て、曲が生まれて来ます。私のこれまでのCDは其々違う楽器で録音してきました。其々の楽器の持つ「艶」が、私にインスピレーションを与えて、そこから生まれた音楽をCDという形にしていったのです。どれも大切な「艶」っぽい相棒達。手入れも楽しい訳です。

「艶」のある音、魅力ある音楽がもっともっと世の中に溢れてゆくといいですね。

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