先日東京文化会館で小ホールで行われた「中島ゆみ子と仲間たちVol.8」に行ってきました。

ヴァイオリンの中島ゆみ子さんとは一昨年、昨年と共演し、昨年は拙作をチェロを加えたトリオで一緒に演奏して頂いたのですが、ゆっくりと中島さんの演奏を、一聴衆として聴いてみたいと思っていましたので、今回はとても楽しみにしていました。今回はメンバーに、やはり一昨年共演したチェロのエリック・ウイリアムスさんも入っていて、久しぶりの邂逅となりました。
プログラムは、ヘンデル、ロッシーニ、ワィルダー、ドヴォルザーク。デュオ、カルテット、クィンテットでの演奏に加え、ワィルダーではチューバを加えた変わった編成でしたが、大変楽しめました。今回のサブタイトルは「低音楽器の魅力を求めて」で、最初はさすがにチューバと弦というのはイメージが湧かず、ちょっとびっくりしましたが、すぐに慣れてきて、アンコール曲などではジャズっぽいアンサンブルも聞けて、多彩な曲を楽しめました。
中島さん所属の「NPO法人音楽の共同作業場」アーティスト紹介より
中島さんは、ソリストとして国内外で活躍し、在京オケではコンサートミストレス、客演主席としても活躍している大変実力のある方で、共演していただける事自体が光栄なのですが、とにかくいつも穏やかで、謙虚で、笑顔な方なのです。チェロのエリックさんも同じく、お二人とも笑っている顔しか思い出せない位に朗らかなお人柄。今回もそんな中島さんの個性が十二分に満ちていた演奏でした。
すべてに無理が無く、力みも無い。高い技術に支えられ、、どこまでも自然に音楽が流れだしてゆく。これ見よがしな表現はどこにも無く、メロディーがたっぷりと歌われ、会話をするように響き合い、ハーモニーの色彩感がとても豊か。どの曲にもアンサンブルの魅力が溢れていました。こうした質の高い生演奏は芸術云々というより、もう快楽ですね。その響きに包まれ接していると、いつもとは別の空間に我が身があるような気がします。
こういう演奏を聴くと、やはり薩摩琵琶にも器楽的な分野はぜひとも欲しいと思ってしまいます。私は琵琶の分野で、多分一番器楽的な演奏をして、作品も作ってきた一人だと自負していますが、まだまだ曲が少ないと思っています。琵琶のこれまでの伝統がどうであれ、現代人は琵琶の楽器としての音色を求めている方も多いのですから、これから現代、次世代の聴衆に向けて、器楽としての琵琶楽を確立する人もどんどん出るべきだと思っています。津軽三味線も唄と切り離されたからこそ、ポピュラリティーを得た事実を観ればそれは明らかでしょう。民謡という事でなく、津軽三味線という楽器を聴きたいという聴衆が沢山居たということです。こだわりや習慣、伝統などをいかに超えてゆくか、次世代を目指してゆけるか。今、薩摩琵琶の器の大きさが問われているような気がします。
そしてもう一つ、アンサンブルもこれからの課題になってくるだろうと思います。器楽でも歌が入っていても、他の楽器と一緒にやるというのは演奏会の内容を飛躍的に広げてくれることでしょう。西洋音楽とは違う別の形、概念でのアンサンブルは、充分に可能だと思います。日本では既に雅楽をはじめ、長唄囃子や能囃子が素晴らしいアンサンブルを完成させていますが、琵琶楽に於いても、アンサンブル作品の充実は、これから大変重要だと思っています。
日本は「和を以って尊しとする」国ですから、西洋型のアンサンブルではなく、日本独自のアンサンブルがあって当然!。琵琶楽も新時代に向けて、世界レベルで発信できるアンサンブルが出来上がって行くとよいですね。
豊饒な弦の響きに包まれて、梅雨の鬱陶しい気分もさわやかに晴れました。音楽の快楽は果てしないのです。