Met Live viewing「皇帝ティートの慈悲」を観てきました。新春にぴったりの煌めくような気持ちの良い作品でした。
スター達が、その魅力を全開にして魅せた舞台でした。選ばれた者だけが立つことを許される世界最高峰の舞台。そんな舞台を観ることが出来るのは本当に幸せなのです。観ていて嬉しくなって涙が出てきました。
モーツァルト最期のオペラとして知られるこの作品は、人によっては皇帝への媚を売るもので評価しないという意見もありますが、もう現代ではそんな所は超越しているし、私は純粋に作品として良いと思います。確かに他の作品とは違う面もあり、大団円のラストシーンは御祝儀曲みたいな所もありますが、それでもこの舞台には喜びが満ちていました。
セスト役のエリーナ・ガランチャはもう最高としか言いようがなかったですね。男性の役(オペラではズボン役といいます)でしたが何の違和感がなく役をちゃんと自分のものにして、歌も演技も最高でした。カルメンの時とはしっかりキャラを変えている。さすがです。「あなたの頬にそよ風を感じたら、それは私のため息だと思ってください」なんて歌いあげる様は言いようがなく素晴らしかった。
そして、いつもは淑女系の役が多いヴィッテリア役のバルバラ・フリットリは、ものの見事に悪女を演じていました。まるでこっちの方が地なんじゃないかと思えるほど!凄い迫力でした。やられた~~!
他にやはりズボン役でアントニオを演じた
ケイト・リンジーがなかなかに素敵でした。最初はちょっと声が細いかな、と思ったものの、第2幕でのアリアは実に素晴らしかった。観ている内にどんどん惹きつけられて行きました。宝塚の俳優さんみたいで、美しい男性という感じが◎。まるで少女漫画からそのまま飛び出してきたようで格好良かった。スターは絵にならないといけないのです。実に良い姿をしていました。これから注目ですね。
こういう舞台を観ていると、オペラの舞台は選ばれし人の為にあるのだと、つくづく想います。現代はライブをやりたいと思えば誰でも舞台に立てる時代。ちょっと出来るようになるとすぐライブ。そしてライブをやることで満足してしまう・・・・。色々なタイプの音楽家が居るのは良い事だと思いますが、私は最高のものを観て、聞きたいのです。選ばれし者しか立つことが出来ない、最高峰の舞台はいつの時代にもあって欲しいですね。
この舞台でMetデビューをしたセルヴィリア役のルーシー・クロウはMetの若手育成プログラムで学び、今回デビューしたそうですが、インタビューで、Metで歌える事が最高の幸せだと、観ているこちらにビンビン伝わって来るような笑顔で答えていました。世界中からMetを目指して才能と実力のある若手が集まって来る。でもその中でも選ばれるのはほんの僅か。その選ばれた者だけが舞台に立てる。だからこそMetはこれからも世界最高のレベルで在り続けるだろうし、世界がMetに注目する。そして煌めくのです。
邦楽にもこの煌めきが欲しい。家元制度もけっして反対ではないのですが、代々家の人だけが受け継ぐのでは、ちょっともう狭い感じがします。現代社会を考えたら、日本という小さい枠だけでは小さすぎる。良いものはもっと世界に向けて発信する位でいいのです。そして舞台は最高のレベルを持って輝く場であって欲しいのです。簡単に手が届かない、最高レベルの選ばれた者が舞台に立っていて欲しい。そんな舞台が日本にもあって欲しいですね。
毎回そうなのですが、素晴らしい舞台は最後のカーテンコールを観ると鳥肌が立ちます。この華やかさと感動は何物にも代えがたい。今邦楽に、琵琶に、この鳥肌が立つような感激と感動があるだろうか?。豊かな人生を謳歌し、視野を世界へと広げ、人間の営みの素晴らしさを実感し、賛美する、官能に満ちた時間を、邦楽の舞台でも味わいたい。上手、お見事、偉い、珍しいなんていうちまちましたものでなく、この身が震えるような音楽を、舞台をやりたいのです。
Metを観ると元気になります。年明けから良いものを観ることが出来ました!