昨日は、琵琶樂人倶楽部第54回目の「語り物の系譜Ⅴ」をやってきました。今回は昨年に引き続き桜井真樹子さんをゲストに迎え、「三五要録」のお話から雅楽~声明そしてヘブライ語アラム語によるユダヤの歌まで、興味深い内容となりました。
桜井さんは音大の作曲科を出た後、雅楽や声明の勉強をして、ユダヤアラブの現地に赴き、ヘブライ語を勉強したり、現地の音楽を研究したりしてきた方です。TOYOと呼ばれるアラブから日本までの大きな文化圏の変遷を常に意識しながら活動している方なので、今回のようなテーマは正に彼女でしか出来ない内容だったと思います。
稽古している以外の音楽をほとんど知らない、という方が多い邦楽・琵琶の世界の中にあって、桜井さんは重衡と千手が五常楽を合奏しながら冗談を言い合うように、私が「嘉辰」を歌い出せば、その場ですぐ龍笛を付けてくる。専門職以外の方でこういう事がすんなりと出来る幅広い見識を持っている人は、いつもの相棒 大浦典子さん位でしょうか。他には知りません。
さて、昨日は嬉しいことに大盛況で客席も満杯でした。この写真で桜井さんと写っている女性は岡庭矢宵さんといって、今年ユダヤのセファルディーという歌のCDをリリースした歌手の方。今日は是非、岡庭さんに聴いてもらいたいと思ってお誘いしました。ユダヤをうたう歌姫達です。
音楽も社会も常に色々なものとの出逢い、接触して形作られてゆきます。TOYOが正にその現場でした。そこに発生するエネルギーは創造力を刺激し、新たなものを生み、育み、一つの形へと洗練を遂げて行きます。しかしその洗練され出来あがったものは、発生時のエネルギーと創造力を失えば、すぐに形骸化し中身の無いものになってしまう。今我々の前にあるものは、そのエネルギーがまだあるからこそ現存しているのです。
今自分のやっている音楽はどこから来たのか。そうしたルーツを知るという作業を、残念ながら近現代の琵琶楽はほとんどしてこなかった。だから薩摩琵琶は今、そのエネルギーを失いつつあるのです。
桜井さんや岡庭さんは自分の音楽のルーツへと向かい実際に勉強研究しながら、最先端の表現者として舞台を張っている。素晴らしい活動ぶりだと思います。
歴史は繋がっている。声明とユダヤの歌は驚くほど近い。TOYOという大きな流れの中には、仏教もキリスト教もイスラム教もある。音楽も文化も人も大いに交流を重ねてきたに違いないと私は思っています。
古から綿々と続く人間の営み。そのTOYOの営みの中から生まれた琵琶を、現代という舞台で演奏したい。桜井さんの声を聞きながらそんな風に想いました。