先日MET LIVE VIEWING「マノン」を観てきました。マスネ作曲の「マノン」は、アヴェ・プレヴォーの小説「マノンレスコー」の主人公で、フランスを代表する(?)小悪魔的存在の女性として有名ですが、アナトール・フランスはマノンを評し「一生涯恋をして、一週間しか貞節でいられなかった女性」と書いています。
フランスのオペラは、前回書いたヴェルディの「エルナーニ」のようなものとはタイプが違い、どこか滑稽味があって洒落ている。この間観たプーランクのものもそうでしたが、ちょっと軽いコミカルな雰囲気があって、熱狂的声楽ファンには「もっと歌を!」という感じもしないでもないですが、これがフランスオペラの持ち味。今回の「マノン」もそういう意味では歌の魅力満載というのとはちょっと違ったのですが、その分オケは豊饒なまでに鳴り、舞台としての見せ場も結構あり、魅力いっぱいでした。それにマノン役のアンナ・ネトレプコはなかなかの「はまり役」で、ストーリーもオペラにありがちな貴族の物語ではない、我々一般の人間ドラマをたっぷり堪能してきました。
Metはとにかくキャストが豊富ですね。どの作品を見ても皆キャラにぴたりとはまる人材を選んでいますね。今回の相手役デ・グリューのピョートル・ベチャワもそうでした。マノンに翻弄されるまじめな青年の雰囲気が良く出ていました。
「エンチャンテッド・アイランド」でのジョイス・ディドナートも魔女っぷりが板についていたし、ドミンゴなんか登場した時からすでにまんま海神ネプチューンにしか見えませんでした。超一流がしのぎを削って集うだけあって層が厚く、様々なタイプの世界的スターが揃い、まさに煌めくようです。
今回の「マノン」は設定を19世紀にした演出で、より身近な感じがしました。またセリフの中に「神様は幸せをとても軽くつくられた…だからすぐ何処かへ飛んでいってしまいそうで怖いんだ」というデ・グリューのセリフなんかぐっときましたね。オペラは名言の宝庫です。
こういう質の高い舞台は観ていて本当に幸せになります。私は日々色々な舞台を観ていますが、こういう満足度の高いのものは少ないですね。
日本人は素人でも何でも一生懸命やっていると、質に関係なく感動しただの、凄いだのとすぐ言います。いい例がAKBなどのアイドルでしょう。一生懸命は結構なことですが、結局は「姿勢」は求めても「質」を求めていないという事です。
琵琶の世界でも、トップレベルがしのぎを削った、あの勧進帳初演の頃(先日ブログで書いた)は、遥か昔の出来事になってしまったようです。
「日本人は成熟できない国民」という意見をよく聞きますが、音楽界の状況を観ていると、確かにそうだと思えてなりません。個性を殺して、軋轢の無いかの如くに「和」を保っていても、それは本当の「和」でもアンサンブルでもないのです。まず確固とした「個」があり、その上でお互い意見を出し、議論し合い、お互いの違いを認め合い、共生出来て、初めて組織や社会は成り立つもの。それが出来なければ「成熟してない」と言われても仕方がないのです。これでは国力も落ちるわけですね。
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