春を待ちわびて

1Photo 新井勇祐
先日の「ひとつのメルヘン舞踊会~恋哥」は無事終わりました。内幸町ホールも久しぶりでしたし、Tpの金子雄生さん、ダンスのナオミミリアンさん、ベースの伊藤啓太さん、詩人の郡宏暢さんと御一緒で楽しい会となりました。私は主催の花柳茂義美さんと二人での演目のみの演奏だったのですが、このチームでまた何かやりたいですね。今年は気持ちを新たにする機会が度々訪れ、10thアルバムと共に新たなフェーズに入ったと実感しています。

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深大寺植物園


外はもう色んな花が咲き出していて、コブシも咲いているので、間もなく桜も咲き始めるでしょう。ミモザ、モクレン、サンシュユ、ハナカイドウ、ハナスオウ等々、見ているだけでも華やかな気分が満ちて心が豊かになります。今年もまた穏やかな春を迎えられる事を願うばかり。私はその陽射しを日常の中によく感じるのですが、何か柔らかく包み込まれたような感じがして心地良いです。それだけ春というものは、命の芽吹く、生命の源となるようなエネルギーに満ち溢れる、生物の根源的な季節なのでしょうね。今世の中は常に激動していて、日本がこれからどうなるのか見当もつきませんが、頭に血が上って、花の美しさも目に入らないような人ばかりが闊歩するような社会では魅力のある音楽は響いて来ません。時々琵琶の音が聴けるような世の中であって欲しいものです。

台湾山桜1-s

台湾の友人が以前送ってくれた桜花


私はこの時期、花粉症の出始めの頃ちょっと体調を崩す事が多いです。今年も上記の舞踊会が終わってから何だか疲れていたのか、週明けまで部屋でごろごろとしていました。私は元々喉が弱いのですが、子供の頃より声が全く出なくなったり、出てもまるで別人のような全く質の違う声になる事が時々あり、今年もちょっとそれに近い感じでした。何だか憑依でもされるんでしょうかね。暫くすると直るのですが、やはり私は声を扱う人ではないようです。声と琵琶を別にするスタイルをもっと推し進めろ、というメッセージかなと思っています。

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左:座高円寺  右:福島安洞院 にて


この夏「良寛」の公演を佐渡で上演しようという計画があります。佐渡は良寛の母親の故郷でもあり、良寛は対岸の出雲崎からよく佐渡を眺めて見ていたという事ですから、佐渡で公演が実現できると良いですね。以前も書きましたが、「良寛」のラストシーンは津村先生と私の演奏する樂琵琶独奏「春陽」だけの8分間の静かなシーンで幕を閉じます。春の陽射しに包まれて、過去から現代迄良寛を取り巻く人々の総体=翁の姿となって津村先生が舞うのですが、その姿は現世俗世を超え何ともいえないオーラに包まれ、その場は何も夾雑物の無い清浄で無垢な空間へと変容していました。またあの瞬間を味わいたいですね。
私は実に多くの舞人と共演しているんですが、毎回舞台そのものを創り出すことが出来るのが嬉しいです。ジャンルも様々ですし、感性も皆それぞれですが、身体表現というものは音以上に嘘を付けないですね。常に純度が問われます。今回の内幸町ホールでは共演出来無かったですが、別演目で出演したナオミミリアンさんの身体表現は素晴らしかったです。是非近いうちにどこかで舞台を一緒にやってみたいですね。

5若き日 コンテンポラリーダンスのかじかわまりこさんと
琵琶で活動を始めた時から毎年舞人を一緒にやって来れたのは実に有難い経験でした。舞踏、コンテンポラリー、モダン、バレエ、日舞、地唄舞、フラメンコ、中国舞踊、韓国舞踊等々、数えきれない方々と共演して来ましたが、音楽だけでは実現できない世界を創り出すのはとても刺激的で、舞台をやっていて本当に得難い瞬間を頂いたと思っています。
未だにお浚い会や旦那芸の域で足踏みしているものも多いですが、創造性に満ちていないものはエネルギーも湧いてきません。観客はそのエネルギーをこそ求めているのではないでしょうか。私自身そんなエネルギーと創造性身溢れた舞台を創りたいし観たいですね。予定調和の名人芸に埋没し、弟子や業界にば世界に向けて創っていって欲しいものです。

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昨年の善福寺川緑地

この春は私に何をもたらしてくれるのでしょう。もうすぐ出来上がる小品もあるのですが、何か新しい世界が出て来るんじゃないかと期待しています。私はどうも自然現象に敏感に感性が反応して色んなイメージが湧いてきますし、自然の中に身を置いていると、俗世の波騒が消え、心身共に浄化されます。体調も戻って来ましたし、春の陽から聴こえてくる音や目の前に溢れる色、穏やかな風等々、そんな春の情景の中に遊んで、新たな曲想が降りてくるのが待ち遠しいです。

光に溢れた季節にまた新たな一歩を踏み出して行きたいものです。

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