パラダイムシフト

人間を拒むようなとんでもない暑さが続きますね。私は何とか大丈夫ですが、コロナ以上にこの暑さには気を付けないといけません。いつから夏はこんな異常な暑さになってしまったのでしょう。私が子供の頃体験してきた夏は、こんなんじゃなかったと思うのですが・・・・。

気候も、社会もどんどんと変わって行き、自分自身も年を重ねて、この世に不変というものがあるのだろうか、という想いが年を追うごとに強くなりますが、正に世はパンタレイですな。特に今はもう変化というよりもパラダイムシフトともいえるような状態にあるのではないかと思います。

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六本木ストライプハウスにて photo 新藤義久
先日、知人から「お前の琵琶は完全にパラダイムシフトしてるね」と言われました。私にとっては何より嬉しい言葉なんですが、この時節にぴったりな言葉だなとも思いました。私は元々琵琶を手にした最初から、ずっと自分の思う形の独自路線をやってきたので、従来の○○流による弾き語りのスタイルが「薩摩琵琶」というものだと感じている人にとっては、私の演奏は最初からパラダイムシフトしていたようなものですね。同じ琵琶を弾いても全く違う音楽をやっている訳ですからね。最近はそれがかなり徹底してきたという事でしょうか

私からすれば、やりたいことをやりたいようにやる為にギターから琵琶に転向したので、従来の薩摩琵琶がどうかという事は、最初からほとんど眼中に無かったのです。薩摩琵琶は明治以降、特に対象~昭和の芸能で、能のような古い歴史のある古典でもないし、いかついた男性目線の歌詞で、時に軍国っぽい内容にも全く共感は出来なかったので、その音楽には何も興味が持てませんでした。明治という新しい時代とは言え、何故千年以上の豊かな歴史を持つ琵琶音楽の流れの中に、あのようなスタイルの音楽が、出来上がってしまったのでしょうか・・?。
長い琵琶樂の歴史でも、樂琵琶は雅な宮廷音楽でした。樂琵琶の秘曲「啄木」の様にその音色を聴いているだけでシルクロードにまで想いを馳せられるようなスケールの大きい音楽でした。平家琵琶も古典の物語を通して人間の存在そのものを想起させ、諸行無常を語るやはり大きなスケールを持つ音楽でした。盲僧琵琶はその名の通り宗教的な音楽でしたので、現世を超えた世界を琵琶と語りが表していました。

しかし近代に出来た薩摩・筑前は、感情を丸出しにして、個人の喜怒哀楽をぶつけるように、直近の出来事や戦争の事を歌います。どろどろとした感情を語り、琵琶の弾法自体も「叩く」という方が似合うような、単純なものになりました。それも当時の一つの新しい形だったのだと思いますが、スケールの大きな世界を表現していた琵琶樂が何故、目の前の現世の事を大声張り上げて語るようになってしまったのか?。まあそれだけ当時の世の中が軍国一色だったのでしょうね。私には残念でなりません。

2020フルセット④私はとにかく琵琶の楽器としての表現力の高さと音色が何より気に入っていました。この25年程、自分の創作として、やりたいことをやりながらも、琵琶樂の古典である樂琵琶=雅楽や平家琵琶等もそれなりに勉強してきました。やはりせっかく世界にも例のない長い歴史と素晴らしい内容の音楽が、そこにあるのですから、その過去の遺産を知らないというのは、どうしても薄っぺらくなってしまいます。琵琶樂の千数百年に渡る歴史の中で、薩摩琵琶はまだ世に知られるようになって、まだ100年程の歴史しかないのです。音楽的にはこれから次世代、次々世代が成熟洗練を施して行くだろう、と私が感じるのも無理はないと思いますが、如何でしょうか。琵琶樂の深い歴史と、これ迄奏でられて来た素晴らしい音楽を知らないというのは、私にとってはもやもやをずっと抱えている状態になってしまうのです。まあ評価はどうあれ、私自身は今の自分の作品群や活動には大変充実を感じています。
私は若い頃に、二つの流派で少しばかり習いましたが、残念ながらそれはあくまでお稽古として形を習っただけで、琵琶樂の分析や考察、研究、歴史等々、ある意味アカデミックな内容はお稽古の中には微塵もありませんでした。それは指導する先生が悪いというのではなく、私が求めるものが薩摩琵琶の流派というものの中に無かったという事です。歴史の浅い薩摩琵琶の流派にそれを求めるのは酷というものでしょう。

薩摩琵琶は楽器の名前とジャンルが一緒くたになっているので判りずらいですが、ギターでもクラシックからジャズやロックもあるように、同じ琵琶を使っても色々な音楽があって良いと思います。私は100年前に成立した近代の薩摩・筑前の琵琶とは全く違う、新たな琵琶樂を創っているのです。
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さて今度の日曜日16日は琵琶樂人倶楽部の夏の恒例、SPレコードコンサート。今回は珍盤をそろえております。乞うご期待。18時開演です。是非お越しくださいませ。

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良寛公演 先日の稽古風景とチラシ

そして21日の戯曲「良寛」の公演も迫っております。毎回、贅沢にも津村先生の主催する緑泉会の稽古場をリハーサルに使わせてもらってやっているのですが、稽古を重ね、だんだんと良い形が出来上がってきました。21日14時30分(昼の部)、18時30分(夜の部)の開催です。こちらも是非よろしくお願いします。

加えて月末には内田樹さんの主催する神戸凱風館にて、安田登先生、SPACの榊原有美さんと私の3人で、「吾輩は猫である~鼠の段」「耳なし芳一」「夢十夜~第三夜」の公演が決まりました。関西方面の方、是非是非よろしくお願いいたします。
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昨年の12月、日本橋富沢町楽琵会にて、津村禮次郎先生と photo 新藤義久
時代は容赦なく変化して行きます。今はそれがかなり急激になっています。新しい時代に新しい音楽を創造した永田錦心の様に、及ばずとも私も新たな琵琶樂を創って行きたい。過去をなぞって上手を競い合っても、新たな時代に新たな音楽は響かない。形も感性も時代と共に変わるのが当たり前。私が継承するものは、時代と共にありながら創造するという志であり、それこそが受け継ぐものだと思っています。

次の時代へ

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