初心忘るべからず2018

先日雪が降ったと思ったら、もう日曜日には満開宣言が出るというなんとも目まぐるしい春ですね。

1058

今年の善福寺緑地

今年は年明け早々から、塩高モデル大型2号機の側面がバリバリと剥がれ、びっくりしましたが、1月末には1号機の覆手が演奏中に取れ、もう散々でした。2号機は先月直って来たのですが、1号機はやっと昨日直ってきました。私は限界まで楽器を鳴らすタイプですので、大分負担をかけていたのでしょう。どちらもメンテナンスの時期に来ていたということです。

ここ数年は2号機のほうが出番が多く、1号機の方はずっと総合的なメンテナンスをやっていなかったので、今回は全ての駒の作り変えをして、覆手の取り付け角度を上げて絃高を調整し、そのほか糸巻きや面板のひび等々必要なメンテナンスを全体に渡ってやってもらい、更に象牙レス加工を施しました。糸口は貝で、覆手の糸留めの所はプラスティック、その先端は黒檀、海老尾の先端は象牙椰子という木の実にしてもらいました。

IMGP0647IMGP0648

元々月マークはプラスティックでしたので、これで完全象牙レスになりました。糸口の貝は分解型琵琶と同じ仕様になっていて、弦長に差を付けてあります。
やはり時代に対応して、ハードの面もどんどん変えていかないと、世界に受け入れてもらえません。もう象牙や犬猫の皮を使うことは世界標準のセンス、モラルから見ても、別素材に変更すべきだと私は以前から考えていました。当然音質面は以前とは変わるでしょう。でも50年前の三味線と今の三味線では全く音の出方が違うというのも事実です。ピアノの鍵盤も、ドラムのヘッドも、筝の絃も皆こうした時代に合わせた改良を経ても、現代に夫々素晴らしい響きを作って来ているのです。勿論演奏技術も楽器の変化に合わせて変わってきますし、表現の仕方や音楽そのものも変わります。世の人々が良いと思う音のセンスも変わって行きます。音楽は常に世の中と共にあってこそ音楽。変わってゆくことこそが自然なのです。そこを忘れては音楽は成立しません。何事も変われないものは滅んで行くのです。

今邦楽を取り巻く状況は変化の真っ只中にあります。そこを感じ取れるかどうか、今後はそこにかかっているでしょう。多分2020年の東京オリンピックをきっかけに、邦楽器には何らか変化が起きるはずです。起こさなければならない事態になるでしょう。その時にその変化に耐えられるだけの包容力と技術、そして柔軟な感性が邦楽に残っているかどうか。今正にそこを問われているのだと思います。

jackets1stCD 「Orientaleyes」
この大型1号機は私の1stCD「Orientaleyes」で使ったものです。こいつがあらためて命を輝かせて戻ってきたことで、初心のあの頃を思い出しました。まだ30代で突っ走っているだけとも言えるような状態でしたが、あの純粋な心となんでも吸収する姿勢を忘れたくないですね。
私は何時も自分を取り巻く環境や自分自身に変化を感じると、「初心」ということを思います。人は少し色んな勉強をすると、確かに知識も多少の経験もついてきますが、同時にそれに囚われ、つまらないプライドが出てきて、いつしか小さな所に固執して世の中が見えなくなることはよくあることです。
初心者の頃は、とにかく自分の知らないことを吸収する為に貧欲で、あらゆる努力も惜しまなかった。自分と違う感覚のものをどんどんと取り入れ、違うものだからこそ勉強を重ねた。しかし多少弾けるようになると、初心の頃の柔軟なセンスが無くなり「こういうものだ」「こうでなければ」という硬直した頭になって自分の世界に閉じこもって、目の前の事すら見えなくなってしまう。これが一番の落とし穴だと私は常に感じています。

幸い私には色んな分野の友人が居て、しょっちゅう私の知らない世界のことを話してくれますので、そういう話を聞く度に私は「初心」を思い出し、常に多くのものを吸収し勉強する姿勢でいようと思うのです。謙虚ということよりも、まっさらといった方がよいでしょうか。なんでもないただの人で居ないと、入ってくるものも入ってきません。人は偉い先生にお説教はしてくれませんし、至らぬ点も指摘してくれません。だから舞台を下りたら、琵琶奏者の塩高ではなく、ただの一人間としているように心がけています。

IMGP0652ケース内部

今回直ってきた大型一号機と昨年分解型に改造した中型2号機


この大型1号機は今回のメンテナンスで音がシャープになり、通りの良い音になりましたので、これからまた使用頻度が上がってくると思います。少し音色が硬く感じなくもないですが、そこはサワリの付け方を工夫したりすれば全く問題ありませんし、これによって新たな表現が生まれ、私の音楽は更に一歩大きく前進することでしょう。糸口のサワリに関してはメンテナンス性も良くなりましたので、こいつの今後の活躍に期待したいですね。

相棒達もここ1,2年でリフレッシュされて戻ってきましたので、私自身も今一度初心に帰って取り組んでゆきたいと思います。

「初心忘るべからず」

© 2025 Shiotaka Kazuyuki Official site – Office Orientaleyes – All Rights Reserved.