
音色はすべての音楽の原初。私は、音楽の美は全て音色に集約されるとも思っています。リズムよりも和音よりも、何よりも音色。私は音楽を始めた最初から、これだけは一貫しています。その音色を求めて自分専用のモデルを作り、曲も自分で作りやってきました。音色の追及は死ぬまで続くと思いますが、最近、周りから音色に関しての話題が盛り上がってきた事もあって、少し私の想いを書いてみようと思います。
誰でも楽器を演奏する人は格好良く、流暢に弾きたいものです。私もいつかはヴァン・へイレンのように弾いてみたいし、ジャズだったらウエスモンゴメリーがビックバンドをバックに従えて出した「Movin’ Wes』みたいに・・・・・等と密かに思っています。しかしどんなに凄いリズム感やテクニック、音楽理論があっても音色が悪かったらすべてが台無しなのです。まあ当たり前の事ですが、音色に命かけられないような演奏家はプロでもないし、3流4流の域でしかない。一流はその人だけのオリジナルの音色を持っているから一流なのです。そしてその音色がリスナーを魅了するから一流なのです。
琵琶に関して言えば、皆さん声についてはかなり気になるようですが、琵琶の音色について語る人は少ないですね。私は正直な所、良い音を出している琵琶奏者はほんのわずかだと思っています。ナンバー1やら第一人者等と冠付けて宣伝している人も結構いますが、その音色に感心した事は一度もありません。自分のオリジナルな音色を持っている琵琶奏者はどれだけ居るのでしょう?????

私自身もっともっと音色の追及をして行きたいのですが、若い方に指導する機会がある時には、先ず左手の使い方を言います。よく書いている右手のタッチはもう、弦楽器奏者が死ぬまで追求すべき、終わりなき仕事だと思います。しかし実はその前に左手がものを言うのです。ギターでも琵琶でも、リズムやフレーズを追いかけて上手に弾こうとするあまり、フレット(柱)の際にちゃんと指が行っていない事が多いですね。左指がフレットから離れていては音がビビりますし、フレットに乗ってしまっていたらこれまた音が響きません。多分楽器を習った人なら一番最初に言われた事だと思うのですが、こういう楽器を鳴らす基本を、少し弾けるようになると、リズムに乗る事や恰好良いフレーズを弾く事に終始して、音色の事を忘れてしまいます。
ただそんな人もひとたび「音色こそ命なのだ」と本人が自覚すると、とたんに凄い勢いで演奏がレベルがアップします。これに気づくかどうかが一つの関門ですね。
何故しかるべき位置に左指が来ないのか、先ず一番は意識の問題ですが、身体的には左指のストレッチが出来てない例がギターでも琵琶でも多いように見受けます。

錦琵琶のような昭和に出来た新しい琵琶は、左手自体を盛んに動かしてフレーズを弾きますが、動かして弾く事に慣れると、左指のストレッチをしなくなります。確かに流派でお稽古した曲ならそれで良いでしょう。しかし創作こそがその命とも言える新琵琶楽錦琵琶に於いて、ストレッチが効かない指使いでしか弾けないようでは、可能性を著しく狭めているとも言えます。従来の発想や枠を飛び越えて行く事こそ水藤錦穣、鶴田錦史の志。私は新しい時代の新しい琵琶楽を創造する事こそ錦琵琶の使命であり、受け継ぐべき志だと思っていますので、これからの琵琶奏者には是非左手の使い方をもっと工夫して頂きたいと思います。それにしても二人の流祖は今の現状をどう思っているでしょうか???
私は複数のポジションを抑えて弾く和音(重音)を多用していますが、こうした響きもストレッチが出来ていないと思いつきませんし、実践できません。良い音を確実に出す為の基礎段階として、左手のストレッチは最適ポジションに左指を持って行く、とても大切な訓練だと思います。
また左の運指に関しても考察が足りてないと思う事も多いです。長くなるので、こちらについてはまた機会を別に持ちたいと思いますが、優等生宜しくお稽古を真面目にやっているだけで、楽器を弾くという事を甘く見ていたら、魅力的な音色も音楽も響いて来ません。底の浅い、上っ面の根性や思い入れだけでは音楽は生まれないのです。弦楽器は歴史的にもその奏法が色々と研究されてきました。そういう所を見ずに「琵琶はこれでいい」と思うのであれば、もうそれまで。世界を視野に琵琶を響かせたいと思うのであれば、ありとあらゆる研究考察をしなくては、その魅力は世界に伝わりません。世界を目指した永田錦心・鶴田錦史の視野の大きさと志の深さを、あらためて感じずにはいられませんね。
ファーストアルバムを出した時、私は意気揚々と音楽プロデューサー星川京児さんの所に、この「Oriental Eyes」を持って行きました。全編私のオリジナル作品であり、琵琶史上に無い、ジャズのエッセンスを持ったアルバムとして絶対の自信を持っていました。今でもこのアルバムは大好きで、次のCDはこんな感じにしようと思っている位ですが、そのプロデューサーの星川さんが、その場で聞いてくれた時の第一声「T師匠と同じ音がしてるね」と言いました。T師匠は勿論尊敬しておりましたが、こうして言われてみると、嬉しいやら悔しいやら、何とも言えない感情が込み上げたのを今でも覚えています。その後私は自分独自の境地を目指して行くのですが、星川さんの言葉を聞いたからこそ今の自分があると思いますし、聴いた直後は「まだまだだな」と思いました。
追及は果てしないのです。