毎日凄い暑さですね。私は暑さだけはどうにも苦手なので、家に籠っている事が多いです。普段から買いためている本を片っ端から攻めているんですが、こういう時間は自分の土台の部分を豊かにしてくれるので、人生にこういう引き籠りの時期も必要かもしれません。自分の中の想いでしかなかったものに、言葉を与えられたようで、しっかりとした輪郭を持って見えて来ますし、またその先へと思考も深くなります。


あとはとにかく作曲ですね。私は常に何か曲を考えていて、思いついたらすぐ譜面に書き留めています。実はこれまで一度舞台にかけたけど結局やらなくなった曲は山のようにあり、CDにしたものでも今はやらないものもあります。中には別の曲に作り替えたらいい感じになって、よくやるようになった曲もあります。一応出来上がると笛の大浦さんや尺八の晄聖君なんかに見せて、音出ししてもらいながら推敲を繰り返して、日々作曲をしているのです。こんな訳で我が家には創りかけの曲や、没になって部分だけを保存してるような譜面が山のようにあります。これはもうギターを弾いていた時代からずっとそうなので、私にとって音楽活動とは、舞台を飛び回る事よりも常に創り続ける事ですね。
まあ実験や挑戦も含め色々な仕事をやって来ましたが、最近は演奏活動も一段落ついて、自分がやりたいと思う創作と活動に集中して行けるようになりつつあります。舞台も勿論大好きなのですが、大体私はエンターティナーの真逆を行く性格と姿なので、イベントの賑やかしなどもとてもやれません。まあやっと自分らしい形が見えて来て、枝葉に寄り道する事も少なくなり、自分らしくなってきたという事です。
そしてやはり曲を創るには膨大な時間が必要という事を改めて思いますね。心に大きな余裕がないと語るべき世界が明確に見えて来ないのです。中にはツアーの休憩時間に書き上げてしまった「Voices 」(10thアルバム AYU NO KAZEに収録)みたいな曲もありますが、創るには時間が必要なのです。効率を求めて動く現代の世の中にあっては、無駄のように思われるかもしれませんが、創造とはハンナ・アーレントも言うように人間の一番人間らしい行為です。現代社会は目の前で消費される労働に終始して、創造という事を忘れている。現代社会がどんどんと風土から離れ、社会に歪みを増して行くのは、効率や合理性を重視して人がものを創り出すリズムをないがしろにして世の中が動いているからだと、私は思いますね。
人間の営みには無駄は無いのです。昼間からビール飲んでひっくり返っているような時間もあってこそ、何かが生まれ、世界が動き出すのです。という訳でビール飲むのも仕事の内という事で納得している次第であります。今3曲程同時進行で進めていますが、どうなる事やら。
お陰様で琵琶樂人倶楽部の方は毎月順調にやっています。もう18年も毎月琵琶に関する様々な企画を立ててやっていますが、毎回違うので飽きが来ません。毎月違うゲストと共にリハーサルをしたり、企画の為の編曲をしたりして、とても充実しています。今週7月9日(水)第209回は、Msの保多由子先生と笛の玉置ひかりさんに来ていただいて、新たな琵琶唄を聴いて頂きます。是非お越しください。
演目は、「朝の雨」(平家物語 千手より) 「経正竹生島詣」(平家物語 竹生島詣より) 四季を寿ぐ歌「春」・「夏」他
割と伝統的なスタイルから、前衛的な曲、雅楽的なアレンジの曲等々演奏いたします。
今回は琵琶と歌の組み合わせでも色んなバリエーションが創り出せる、という所を是非聴いて頂きたいです。琵琶樂はとにかく型にはまり過ぎ。私は琵琶を手にした最初からずっとそう思っています。私が弾き語りをほとんどやらないのは、琵琶唄の造りがどれも同じで、その歌い方も張り上げるばかりで、表現に乏しいと思えてならないからです。他のジャンルの歌は実に多種多様な表現があり、曲があり、一つのジャンルでも静かなバラードあり、アップテンポのノリの良いものあり、精神の奥深さを感じさせるものありと多様な魅力に溢れているというのに、琵琶唄は実に幅が狭い。明治大正の父権的パワー主義で貫かれているような曲も未だに多くあり、残念でなりません。だから私はこの世界にもまれな妙なる琵琶の音をもっと聴いてもらおうと思って、自分で創るのです。軍国時代を琵琶の伝統にはしたくないのです。日本の育んだ長く深い歴史と感性をもって、新たな琵琶樂を創って行きたいのです。
芸術家、といより人間は常に創り出すのがその精神の根本。どんな感性を土台に持って、魅力ある音楽を創って行くのかという所を問われるのです。外国かぶれの物真似や、旧来の型をなぞっただけの生半可なものは、いただけません。
歌に関しては、弾き語りではなく、歌い手と琵琶演奏を切り離して、これからも色々とチャレンジして行きたいと思っています。先日聴いた深草アキさんの演奏も大いに参考にしたいと思っています。
今はもう少し自分の感性の土台を見つめ、考えを明
確にしたいと思っています。色々と本を読むのも、他のジャンルの方と語りあうのも、とても貴重な事ですし、最近は少しづつ色んなライブや公演にも足を運んでいます。中にはただ遊んでいるとしか思えないようなものもあり、がっかりする事もありますが、やはり目の前で観て感じるのは良い刺激ですね。
以前の記事にも載せたパット・メセニーのインタビューで、尊敬するウエス・モンゴメリーに対し「彼は彼を見つけ、彼のサウンドを見つけ、彼らしくある方法を見つけたのです。それは私にとって大きな教訓でした」という言葉は本当に響いてきます。私も自分の音色・音楽・スタイルを実践して行きたいのです。
さて、今日もゆっくり本を読み、譜面に向かいますよ。