春の愁い

急に暖かくなって桜も咲き始めましたね。天気が今一つですが、今週末は一気に花開いて華やかな春を楽しませてくれることと思います。いつもの善福寺緑地の早咲の桜「陽光」も良い感じに咲いていました。
春は仕事でもプライベートでも変化の時を迎える方も多いのではないでしょうか。私も春の陽気に乗って10枚目となるアルバム制作に向けて準備を進めていきたいと思っています。

陽光1
善福寺緑地の陽光

暖かい陽射しに包まれ生命溢れる春ではありますが、割と体調を崩す方もいるようで、私も以前はちょっとめまいがしたり、花粉症が酷かったりしていました。華やかな季節ながらその風情の裏側には、またちょっと違うものを感じている人も多いですね。

大伴家持の歌に「春愁三首」というものがあります。

「春の野に 霞みたなびきうら悲し この夕かげにうぐひす鳴くも」

家持が生きていた当時、大伴氏や家持自身の置かれている状況は結構厳しく、地方に左遷されたり、死後も謀反への関与があったとされ、20年経ってやっと恩赦を受けて地位を回復するという人生でした。この歌を詠んだ時も、とても春を謳歌するような気分ではなかったのでしょう。しかしながら春をただ賛美し謳歌するだけでなく、そこに愁いを感じる感性を、この万葉の頃にこうして表現した事に私は惹かれるのです。
何事も全てに裏と表があるように、春もただ一つの姿のみでは捉える事は出来ません。大体絢爛豪華な桜の美しさも、瞬く間に散ってしまうという事実があるからこその美しさだと、感じる方も多いかと思います。そしてその散り行く姿に美学を感じる人も少なくなのではないでしょうか。梶井基次郎の「桜の木の下には」なんてものもありますし、あの淡い桜色は、根から血を吸い上げてあの色に染まるのだなんてことも言われます。春になるとこうした花々の姿には、旺盛なまでの生命の謳歌と共に、真逆とも言える別のイメージも潜んでいるのです。そう思うと豪華な桜の姿は、見た目の美しさだけでなく物事の真理も感じさせてくれますね。

6神田川1神田川沿いの桜 昨年
まだ世界では戦争の真っ只中ですし、日本も表面上は平和でも、一歩中に踏み込めば問題はもう山のように出て来ます。知らない内に土地も水源も外資に買われ、豊かな自然はソーラーパネルで覆われ、政治も経済も低下するばかり。今日本はかなり危ない状況とも言えるかもしれません。言い換えれば、日本のこの春は正に愁いの春と言えるのではないでしょうか。

この春の美しい風景と平和を、これからどこまで保ち、次世代に繋げてゆける事が出来るでしょうか。今を生きる我々に突き付けられた課題はあまりにも大きいと思います。
現代人の今の思考で、この生活のスタイルをそのままで続けていたら、確実に明るい未来はやって来ないと誰しも思うのではないでしょうか。現代のテクノロジーは素晴らしいですが、あくまで自然との共生をした上でこそ成り立つものであって欲しいのです。自然と共に生きて来た人類の歴史を今一度思い起こし、豊かな感性を持って欲しいと切に思います。今こそ音楽・芸術が必要な時代ではないでしょうか。

私は風土の無い音楽をやりたくないのです。世界がつながっている時代だからこそ、この豊かな風土を忘れたくない。文化は様々な影響を受けて創り上げられて行くのもですから、色んな国の音楽の影響も時代の影響も受けながら、その上で、この日本の風土に於いて新たな音楽が生まれて行くのは素晴らしいと思います。時代と共に在ってこその音楽だと思っています。しかしだからこそ表面上の物真似はしたくないのです。日本のものであっても、ただ表面の格好良さだけをなぞるようなことはしたくありません。そこには音楽・文化に対するリスペクトは無いし、日本の風土が育み奏でた音色も無いと感じるのです。私はジャズもフラメンコもクラシックも大好きでよく聴きますが、様々に影響を受けながらも、この風土が常に土台となる音楽を創り演奏し、それを世界に響かせたい。日本音楽の最先端を創って行きたいのです。

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さて今月の琵琶樂人倶楽部は毎年恒例の「次代を担う奏者達」です。今、琵琶に取り組んでいる方々を紹介します。今回は4人の方に出て頂くのですが、中には既に演奏活動を始めている人も居れば、オリジナルをがんがん作っている人も居ます。また将来をこの道で生きて行きたいと思っている若者もいます。それぞれに琵琶に取り組んでいる頼もしい方々です。

私が活動を始めた30年前とは随分世の中の状況も変わり、のんびりとは生きて行けない現代日本ですが、是非次代に琵琶の音を響かせていって欲しいですね。

4月10日(水)19時00分開演です。詳細は上記のリンクを御覧になってみてください。
ぜひ応援してあげてください。

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