先日、メンテに出していた塩高モデル中型1号機が戻ってきました。大体メインで使っている楽器は2年か3年に一度は必ず全体を診てもらうことにしているのですが、今回は象牙レス加工をしてもらう必要もあったので、結構手を入れてもらいました。
この中型琵琶は一番使用頻度が高く、胴裏の滑り止めもぼろぼろだったし、半月は欠けて、腹板の横線も半分無くなっている状態で、もう結構なお疲れ気味の体でした。細かい所では糸巻きのしまり具合の調整や、糸(絃)を通す穴も、内側に寄っていたので、これまでの穴を埋めて新たな穴を開けてもらいました。こういうところは職人の目で診てもらわないと、結構使っている本人は気づかないものです。私は日々楽器のメンテナンスに関しては人一倍気を遣っているのですが、やはり定期的に診てもらうことは必要ですね。
ただ11月にレコーディングを控えていて、もしかするとこの楽器を録音に使うかもしれないということもあって、糸口だけはまだ象牙のままにしてもらいました。ちょっとまだ貝の糸口はセッティングに慣れていなくて、先日出来上がった分解型の糸口の(左写真)セッティングが、最近やっと決まってきたという段階ですので、今回は安全策をとりました。レコーディングが終わったら、こいつも貝仕様の糸口もに変えるつもりです。またもう一つのメイン楽器 大型の方も完全象牙レス仕様にしてもらう予定です。
比べると大きさがわかるかと思います。中型大型共に低い第1・2絃をDDに固定していますので、この音域が一番響くように糸もサワリもセッティングしています。第3弦はGかA、第4絃はDかEに限定しています。
私は樂琵琶での「啄木」のような古典雅楽曲を除き、薩摩琵琶に於いてはほぼ100㌫自分で作曲した曲を弾いていますので、常にこのチューニングで弾いています。作曲家の作品の演奏を依頼された場合は、全て私の琵琶のチューニングに合うように曲を書くことをお願いしています。その他のチューニングの曲は一切遠慮しています。それはチューニングを変えるとサワリが変わってしまうからです。特に太い糸の場合は、糸口を削りなおす必要があります。元に戻すのもまた削りなおすことになるので、いわゆる現代邦楽の高い調子の曲は弾いたことがありません。別に私が弾かなくてもよいですし・・・。
第1絃から第3絃までは、サワリの音に良い感じの「うねり」が出るように心がけています。この「うねり」が気持ちいいんですよ。先ずは自分の好みの音になるように、音の伸びと音色をセッティングして、その上でほんの少し中部から上部にかけて削りを入れてあげると、音に微妙なうねりが出てきます。試しにこんなものを聞いてみて下さい。
邦楽をやる方はロックなど聞かない、という方も多いかと思いますが、この低音の鳴り、エッジの効いた輪郭、うねり、そして低音から高音までの音量音色のバランスは、弦楽器のサンプルとして実に判り易い。アコースティックの楽器でしたら、ラルフタウナーの12弦ギターが実に素晴らしいバランスで響いていますね。
やはりこの楽器を最高に鳴らすには自分で作曲するしかないですね。旧来の薩摩琵琶の概念自体を変える必要があります。タッチもこの楽器に合わせて変えてあげないと響いてくれません。先日も受け渡しの時に石田さんから、「これだけ特殊な注文が多く、うるさい人は他には居ない」といわれましたが、確かにそうでしょうね。
サワリは薩摩琵琶を弾く者にとっては命。それだけに徹底的にこだわらずにはいられません。サワリの音が出来上がるということは同時に自分の音楽が出来上がるということです。どういう音楽がやりたいのか、何故その表現をしたいのか、自分がやるべきものなのか、そこにどういう意味があるのか・・・・。
先ずは音楽として自分の世界を見極め、その上でその音楽を実現する為にはどんな音色が必要なのか、そうやって自分の心が決定して、自分の音楽の姿が見えない限り、サワリの音も決まりません。心がぶれている人は音色も音楽もぶれている。
他人を軸として、自分以外のものを基準にして、自分と他人を比べているようでは、自分の音色と音楽はいつまで経っても響かないのです。自分という存在は他には無く、世界にただ一人しか居ない。是非自分の音楽を創り、演奏したいですね。そうすればおのずと自分にしか出せない音色も響くでしょう。その時には素晴らしいサワリの音が鳴っていることと思います。
私はこれからも自分の音楽をやっていきます。